原発再稼働へ苦肉の策 身元調査、法制化見送り 運用は電力会社任せ
原子力規制庁が法制化を見送ることが明らかになった原発作業員の身元調査制度は、これまで外部からの攻撃に重点を置いてきた原発テロ対策において、施設への出入りが自由な「内部脅威」を排除する有力な手段だ。法制化されれば実効性は強まるが、法制化にはさらなる時間がかかることも予想される。来年の再稼働に間に合わせるためには、法制化の見送りは「苦肉の策」といえる。 内部脅威対策は、(1)施錠の多重化や監視カメラ設置など不正行為を物理的に阻止する「物的防護」(2)IDカードでの管理や不審物持ち込み防止など「出入管理」(3)潜在的脅威者を事前に排除する「人的管理」-が柱となる。身元調査は、このうち(3)に該当し、不正をさせない抑止力として期待されている。 身元調査制度を導入している先進国ではすでに国防、治安部門で導入されているものに原子力部門を適用させており、国民的合意ができている。しかし、日本では治安部門でも身元調査制度が法制化されておらず、民間企業の従業員に犯罪歴などの身元を調査することで、基本的人権やプライバシーなどの問題から国民的議論が必要だとの意見もある。このため法制化は時間がかかるとの見方が強い。 法制化を見送り、自己申告制度にすることで運用は電力会社任せになる。電力会社には、負担が増すことや責任が押しつけられることを心配する声もあるが、再稼働を控えており、時間がかかる法制化を強く言い出しにくい状況がある。 電力会社幹部は「自己申告で受けた情報では裏付けがなく、制度に中身がなくなることが心配だ。何らかの形で国の関与が必要だ」と制度の実効性を懸念する。その一方で「法制化にこだわるあまり再稼働が遅れるのも困る。自己申告制度導入でも内部脅威対策が一歩進んだことに間違いはなく、きちんとした運用で確認を強化していきたい」と話している。産経新聞 11月25日(火)7時55分配信