原発テロ対策 作業員の身元調査、法制化見送り…実効性に懸念
原発のテロ対策を強化するため、原発作業員の身元調査制度の導入を進めてきた原子力規制庁が、制度の法制化を見送ったことが24日、分かった。来月初旬にも開かれる有識者を集めた検討会合で、電力会社が作業員からの自己申告で身元を調べる代替案を提示する方針。来年には原発の再稼働が待ち受けるが、国の関与がない自己申告では実効性が薄く、制度の形骸化が懸念される。 2001年9月の米中枢同時テロ以来、テロによる原発への脅威が懸念されてきた。国際原子力機関(IAEA)が2011年、身元調査に国が関与する信頼性確認制度の実施を各国に要請。主要国では日本だけが導入していなかった。 規制庁は今年1月から検討を進めており、当初は、個人のプライバシーに深く関わる問題であるため、法律で国の関与を明確化する方針を決めていた。例えば、電力会社が得た情報を原子力規制委員会が警察庁など関係機関に照会し、確認結果を電力会社に通知する案も上がった。 しかし、国が持つ犯罪歴や薬物依存の有無、海外渡航歴などの情報の共有は、他省庁にまたがる慎重な議論が必要なため、今回は見送ることを決めた。代わりに、当面は電力会社が、施設の重要区域に立ち入る作業員から自己申告を求め、電力会社が公的な証明書や、場合によっては面接によりその情報を確認する。 海外の状況を見ると、作業員の身元確認のため、英国、ドイツ、カナダでは規制機関が、フランスでは治安機関が担当するなど、国が主体的に関与している。 日本では東京電力福島第1原発事故を教訓にし、昨年7月に施行された新規制基準では、原発への航空機墜落などを想定した原発施設に対するテロ対策が義務付けられているが、原発で働く作業員が対象の「内部脅威者」への対策は盛り込まれていない。 規制庁は、規則の改正にとどめ、自己申告制度を導入する方針。何を申告の項目とするかは今後、検討していくという。(原子力取材班)産経新聞 11月25日(火)7時55分配信