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原発再稼働と「廃炉要請」がなぜ同時期に 政府と電力会社の思惑とは? 国際環境経済研究所所長・澤昭裕

 関西電力は、福井県にある高浜原発の3、4号機の再稼働に向け、規制委の審査を申請している。一方、9月には、関電は福井県にある美浜原子力発電所1、2号機の廃炉を検討していることが明らかになった。再稼働に向けた動きと廃炉の検討が「同時期に」進んでいることを受け、メディアでは、「再稼働にむけた政府と電力会社の駆け引きだ」「政府は電力会社に対し、交換条件として廃炉の検討を迫っている」との見方もある。いったい、この動きをどう見るべきか。電力事情に詳しい国際環境経済研究所所長・澤昭裕氏に聞いた。---------------- 11月7日、九州電力の川内原子力発電所1、2号基について、伊藤鹿児島県知事が再稼働やむなしとの判断を示し、再稼働に向けての地元合意が整った。今後、次の再稼働の舞台は関西電力高浜原子力発電所3、4号基に移る。

再稼働と廃炉の引き換え?

 これに先立つ10月17日、小渕前経済産業大臣が辞任の直前に、電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)と会談し、報道によれば「来年4月から7月に延長運転の申請が必要な7基(関西電力美浜原発1、2号機(福井県)、同高浜1、2号機(福井県)、中国電力島根1号機(島根県)、九州電力玄海1号機(佐賀県)、日本原電敦賀1号機(福井県))について、取り扱いの考え方を早期に示してほしい」(10月18日産經新聞)と述べたとされる。  こうした動きが重なったことから、政治的に不人気な再稼働に向けての環境を作るために、経済産業省が電力会社に廃炉の早期決断を求めているのではないか、それに対して再稼働できなければ電気料金値上げに追い込まれる電力各社は、渋々ながら廃炉の検討に入ることを了承したという構図だろう、という見方をする向きがある。しかし、実態は、こうした「経済産業省と電力会社の駆け引き」といった見立て(9月17日ダイヤモンド・オンライン)のように単純ではないだろう。

なぜ、廃炉検討の要請を?

 実際のところどうなのか。 第一に、「廃炉検討」が再稼働に向けての雰囲気醸成だとか再稼働との「引き換え」だといった見方は少し無理がある。確かに、川内1、2号基の再稼働プロセスと時期は重なってはいるが、しかし現状、経済産業省も電力会社も、「廃炉検討」くらいで再稼働反対の世論が覆るなどという見方は持っていないだろう。その証拠に、その後の宮沢経済産業大臣からの鹿児島県への再稼働の必要性を説明した機会などにも、この「廃炉検討」の件は一切触れられてもいない。 そもそも再稼働自体は、今年4月に閣議決定したエネルギー基本計画に基づいて、エネルギー安全保障確保、経済活動への影響回避、温暖化問題対応等の観点から、規制委員会によって規制基準の適合が確認されたものは進めていくこととされているのである。国は、こうした方針のもと、世論調査やメディアの論説には反対が依然として多く残っているとしても、再稼働はそれ自体として進めていく計画だ。 第二に、事実関係として、いやがる電力会社を相手に「廃炉を検討せよ」と経済産業大臣が迫ったということでもない。上記の小渕前大臣の発言の報道が正しいと思うが、正確には「運転期間制限の40年を(60年を上限に)延長する手続きが迫っている炉について、その手続きを進めるつもりなのかどうなのかを早めに明らかにするよう」求めたものだ。 つまり、来年4月から7月の間に電力会社自身が判断しなければならない運転期間延長申請について、申請するのかしないのかを早めに明らかにしてほしいと言っているだけで、直接廃炉を求めているものではないのだ。原子炉は電力会社の財産であり、安全規制に適合している限り、その廃炉や運転継続や停止を決めるのは電力会社自身であり、国が求めることはできないからである。

地味な実際の理由は、政策的・経営的必要性

 それでは、この小渕前大臣の電気事業連合会長に対する要請とそれに対する電力業界の反応の真意はどういうことなのか。実際の理由は至って地味なものだ。 第一に考えられる理由は、国のエネルギーミックスの定量的な計画策定に向けて、将来の原子力発電所の稼働状況がどうなるのかを把握しておく必要があるということだ。4月に決定されたエネルギー基本計画は、定性的な方針を記述したものにとどまっており、通常なら示される将来の発電量の定量的な電源構成まで踏み込んでいない。 ところが、来年の末に行われる第21回気候変動枠組み条約締約国会合(COP21)で、京都議定書に替わる新たな国際条約が締結される可能性が高まっており、その中で日本が将来どの程度の温室効果ガスを削減するかという数量目標を求められることは必至となっている。 その目標はできれば来年第一四半期、遅くても来年前半には国際的に提示する必要があることから、その目標設定のプロセスは既に始まっている。そのプロセスを進めるためには、温室効果ガス排出の中で大きな割合を占めている化石燃料による発電量が将来どの程度になるのか、その裏返しとして原子力や再生可能エネルギーの低炭素電源による発電量がどの程度になるのかを、国が把握しておくことが必須なのである。

 第二に、新規制基準やこれまでの原子力規制委員会の規制活動の実態から見て、仮に運転期間延長申請を行うとした場合、どの程度の安全対策投資を求められるのかよく見えず、出力の小さい高経年炉を維持することが経済的に見合う程度の投資で済むのかどうか確信が持てないという電力会社側の事情もある。「『渋々』とか『嫌がる』電力会社に対して」という風に書きたいライターは多いとは思うが、実際には不確実性の中での投資をどこまで行うべきかというクールな経済計算が行われているわけだ。 特に国の安全規制方針の変更によって、これまで予定してきた廃炉日程を変更して前倒しせざるをえなくなる場合、増加する想定外費用の扱いなどをどうするのかなど、会計規則などさまざまな準備をしておくことが官民ともに必要になり、そのための時間が必要となる。 こうした準備作業を始めるとすれば、運転期間延長申請期限を到来する年度の前年度で、かつ半年くらいの時間的余裕を確保しておくことが必要だったということだろう。 電力システム改革が先行する中で、原子力問題の取り扱いは遅れに遅れてきた。その結果として、原子力政策の新たな策定に関連する諸要素が複雑に絡み合いながら、いちどきに新たな政策措置に向けての検討結果が出てくることが今後予想される。そうした諸要素に冷静に注目することが必要であろう。

------------------------澤昭裕(さわ・あきひろ) 政策分析専門家。主著に『精神論ぬきの電力入門』、『エコ亡国論』など。原子力政策などのエネルギー問題や地球温暖化問題に詳しい。THE PAGE 11月11日(火)16時3分配信

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